こんにちは。
施設基準管理士、カジハヤトです。
私は精神科病院で医療DXを担当している事務職員です。
最近、院内でもよく聞かれるようになりました。
- 「そろそろ電子カルテにしないとまずいのでは?」
- 「他の病院はもう入れているらしい」
- 「紙カルテは時代遅れじゃない?」
医療DX推進、オンライン資格確認、電子処方箋、情報共有サービス…。
国の方針を見れば、電子カルテ導入は“いずれ必須”なのは間違いありません。
それでも、私は今、電子カルテ導入に踏み切れていません。
今回はその理由を、現場のDX担当として正直にお話しします。
この記事が同様の悩みを抱えている病院の参考になれば幸いです。
2026年精神科病院の医療DX担当ですが、電子カルテ導入に踏み切れない理由をお話しします。

電子カルテで業務は減る。でも、人は増える。
電子カルテを導入すると、
「業務が効率化される」「人手が減る」という印象を持たれがちです。
たしかに一部の業務は軽減されます。
医事課でいえば、
- 手書きカルテの読取り
- 紙から電子への転記
- カルテの持ち運び移動業務
といった業務は減少します。
しかしその一方で、電子カルテ導入によって新たに発生する業務と人材があります。
電子カルテを支えるための専門人材が必要になる
電子カルテは「導入すれば終わり」ではありません。
運用が始まると、
- システム保守
- ネットワーク管理
- 障害時の初動対応
- バックアップ管理
- セキュリティ更新
といった業務が常に発生します。これらを担うのが、いわゆるSE(システムエンジニア)人材です。
多くの病院では、
- 専任SEの配置
- または外部業者との保守契約
が不可欠となります。
つまり電子カルテ導入とは、
事務作業が減る代わりに
IT専門職の人件費が新たに増える
という構造でもあります。
地方・過疎地域では「SEが雇えない」という壁
さらに深刻なのが、地方病院の現実です。
ITエンジニアは現在、
- 都市部のIT企業
- DX関連事業
- クラウド・AI分野
に人材が集中しており、地方では応募自体がほとんどないケースも珍しくありません。
精神科病院は立地的にも、
- 郊外
- 山間部
- 人口減少地域
に位置していることが多く、
- 給与水準で競争できない
- 単独病院では育成が難しい
- 定着しにくい
という問題を抱えています。
結果として、
「お金を出せば解決する問題ではない」
という人材リスクが発生します。
もう一つ増える人材 ― 電子カルテ入力支援という仕事
電子カルテ導入後、現場でよく起こるのがこの問題です。
「ドクターが電子カルテ入力に慣れない」
特に精神科では、
- 長文記載が多い
- 面接記録が中心
- 独自の記載スタイルを持つ医師が多い
という特性があります。
結果として、
- 入力に時間がかかる
- 診察後の残業が増える
- 記録が後回しになる
1日に診察できる患者数が減るなら本末転倒です。
といった問題が生じやすくなります。
その対策として登場するのが、
- 医師事務作業補助者
- クラーク
- 電子カルテ入力代行スタッフ
といった入力支援人材です。
これらに関しても当然ながら、
- 新たな雇用
- 教育コスト
- シフト調整
が発生します。
つまり電子カルテは、
医事課の仕事が減る代わりに、新たな職種が必要になる
という側面も持っています。
電子カルテ導入で新たに発生する「見えにくいコスト」
ここまで見てきたように、電子カルテ導入によって
- 人材構成が変わる
- 新たな専門職が必要になる
という現実があります。
しかし問題は、人件費だけではありません。
電子カルテ導入には、これまで病院経営で想定していなかっ多額のシステム関連費用が発生します。
一般的な病院向け電子カルテでは、
- 初期導入費用
- サーバー構築費
- 端末・周辺機器整備
- ネットワーク工事
などが必要になります。
しかもこの費用は、診療報酬のように徐々に回収できる仕組みではありません。
忘れてはいけない「5年後の更新費用」
電子カルテは永久に使えるシステムではありません。
- サーバーの耐用年数
- OS・ミドルウェアのサポート終了
- セキュリティ基準の変更
これらにより、おおむね5年ごとに大規模更新が必要になります。
更新時には、
- サーバーの入替
- データ移行
- システム再構築
- 操作研修のやり直し
が発生し、その費用は
初期導入時と同程度、もしくはそれ以上
になることも珍しくありません。
つまり電子カルテは、
「導入費用+更新費用」
という二重構造の投資なのです。
半導体不足と物価高によるシステム価格の高騰
近年、医療機関を取り巻く環境はさらに厳しくなっています。
- 世界的な半導体不足
- 円安の進行
- 物価・人件費の上昇
これらの影響により、
- サーバー機器
- ネットワーク機器
- 医療システム保守費用
は年々高騰しています。
見積を取るたびに金額が上がるもんな。
という声は珍しくありません。
数年前であれば導入できた金額でも、現在では同じ構成で導入できないケースも増えています。
トータルで見ると、費用対効果はむしろマイナスではないか
ここまでを整理すると、電子カルテ導入には
- 初期導入費用
- 継続的な保守費用
- SE人材・入力支援人材の人件費
- 5年後の更新費用
- 機器価格高騰の影響
が長期的に発生します。一方で
- 電子カルテ導入による直接的な増収は限定的
- 診療報酬加算の恩恵も多くはない
という現実があります。
その結果、
業務は便利になるが、経営面で見れば費用対効果はプラスになりにくい
という判断に至る病院が少なくありません。
「赤字になってまで導入する意味はあるのか?」という意見もあると思います。
今は“電子カルテの過渡期”にいる
そんな中、少し未来のことも踏まえて考えてみようと思います。
費用面以外でも踏み切れない大きな理由があります。
それは——
今は電子カルテの技術転換期だからです。
従来・現在もまだ主流は、
- 院内サーバー設置型(オンプレミス型)
です。
しかしこれからは、
- クラウド型(SaaS型)
- 初期費用ほぼゼロ
- 自動アップデート
- サーバー管理不要
という流れが一気に進むのは明白です。さらに、ここ1〜2年で状況は激変しました。
AI搭載電子カルテが現実になってきた
最近では、
- 診察音声の自動文字起こし
- SOAP形式での自動要約
- 医師入力作業の大幅削減
といったAI搭載電子カルテが実用段階に入っています。
音声入力により、
- 医師のカルテ入力時間が大幅に短縮
- 診察後の残業削減
- 記載漏れの防止
といった効果も報告されています。
これらのAI機能は、クラウド型だからこそ実現可能です。
データは全てクラウドにあり、医療者は全てAIを通して入力します。
これにより、前半のデメリットはほぼ吸収できます。
標準型電子カルテが登場する
さらに注視すべきは国の動きです。
厚生労働省は現在「標準型電子カルテ」の開発を進めています。
特徴は、
- クラウドネイティブ
- 電子処方箋・情報共有サービス標準対応
- 標準API搭載
- 将来のデータ互換性を確保
- 廉価な価格設定を想定
2026年度中に「導入版」が完成予定とされています。
つまり、
- 今、高額なオンプレミス型を入れる
- 数年後、国の標準仕様に非対応
- 結局また乗り換え
という可能性が現実的なのです。
今、オンプレミス型の電子カルテを導入すると、数年で過去の遺物になりそうです。
まとめ
電子カルテは
- 「紙が電子になるだけ」
の話ではありません。
医事課の入力作業は減る一方で、SEや入力補助スタッフ、セキュリティ対応など新たな人材と業務が発生します。
さらに初期導入費用に加え、約5年ごとの更新費用、物価高や半導体不足によるシステム価格の上昇も避けられません。
また、電子カルテ導入が直接的な増収につながりにくく、トータルで見ると費用対効果がプラスになりにくいのが実情です。
だからこそ、
「今すぐ導入するか」ではなく、「導入後も無理なく続けられるか」という視点が重要だと考えます。
今後は標準型電子カルテの登場や補助金制度の整備が進む見込みです。
支援策の全体像を見極めながら、音声入力や文書作成の効率化など“今できるDX”を積み重ね、最も現実的なタイミングで導入する――それが今の精神科病院にとっての最適解だと感じています。
AIが普通に使えるようになると、運用の形は大きく変わるかもです。
今回はここまでです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。





